開かれた色気
みゆき通りの低層高密度地域を眼前に、HdMが真っ先に感じたことは開かれた都市空間の絶望的な少なさであった。それは彼らにとってみれば「東京人はいったいどこでコミュニケーションを取っているのだろう」という疑問に直結した。なぜならヨーロッパでは、いつでも広場が交流の中心にあったからだ。アゴラ、○○プラザ、○○スクエア、○○サークル、○○コモンなど。広場という意味を持つ言葉だけでも、欧米には日本とは比べ物にならないほどの種類がある。そこでは日常的に人が集まるだけでなく、市場として、イベント会場として、政治的な議論の場として日々、活発なコミュニケーションが交わされていた。HdMは敷地の表参道側半分をまず、ヨーロッパ的な広場として都市に開いた。
PRADA 青山店の敷地の半分は広場となっている
開いたのは広場だけではない。その横にそびえる建築自体も徹底的に都市に開こうとした。ところが、ただ単純に開いたのではない。色気を伴って開いたのである。
建物は凸凹のあるダイヤモンド状のガラスに覆われている
ショーウィンドウという言葉にも見られるように、一般的な商業建築はガラスの窓で覆われ、店内の商品や客をダイレクトに見せることで、また新たな客の目を引こうとする。しかしPRADAの場合、ダイヤモンド状の格子にはめ込まれたガラスに凸凹と膨らみを持たせているため、そんな単純ではない。まるで網タイツの粗い網目からはみ出る生足のように、女性的肉感を大いに伴ったガラスは、レンズ効果で建築の内外を大きく歪ませた。それは時に店内を拡大し、時に米粒のように縮小させる。網目のストラクチャーから透けて見える店内には、柔らかでいて、かつ太く力強い骨のような構造体が見えてくる。
夜は一層その色気を増す「PRADA 青山店」
この建築は、例えるなら、露出度の高いドレスを身にまとった社交的な女性に似ている。見た目にはオープンで、強い芯を持った女性であるが、感情の起伏(凸凹)が激しいのだ。そんな男性を振り回す制御不能な気性こそ、彼女の魅力であり、それはある意味においては西洋的な色気と言えるのではないか。