「大学を出るまでに社長になれ」情報を“密輸”するオン・サンデーズの船出
「VAN」や「VAN99ホール」(1978年に閉館)、浩一氏がピンボールに熱中したという「東京ボウリングセンター」(1952年オープン、87年に吉祥寺へ移転)。1970年代後半、“青山らしさ”を象徴する場所が消えゆく中、大学1年生の浩一氏と大学4年生の恵津子氏は、ワタリウム美術館のミュージアムショップの先駆けとなる「オン・サンデーズ」を1980年に始動させた。

1980年9月一番最初のオン・サンデーズの外装 写真提供:ワタリウム美術館
恵津子:「今思うとオープンの背景には街の影響があったと思います。ところどころに“変なモノ”、異質な個性を放つ店が存在していたおかげで『青山にはこういうものがあっていいんだ!』っていう思考に自然とさせてくれた。最初は大学に通いながらでしたし、母のギャラリー(ギャルリー・ワタリ)がクローズしている日曜日がもったいないから、バイトするよりはいいんじゃないかな、というくらいの気持ちでした」
浩一:「和多利家の家訓だったんですよ。大学出たときには社長になって起業していないといけないっていう。母からは口を酸っぱくして『勤めに行くっていう考えはなしね』と言われていました(笑)。それで姉が大学4年、僕が1年のときから店をやり始めたんです」
母からの愛ゆえの“家訓”に導かれた二人。志津子氏の常識に縛られない自由な感性と、スケールの大きさを物語る。インターネットがない時代に漕ぎ出したオン・サンデーズ。仕入れは常に「現場」への直接交渉だった。

1984年頃、「オン・サンデーズ」の内観。今と同様、たくさんのポストカードと雑貨が並ぶ 写真提供:ワタリウム美術館
浩一:「スーツケースがパンパンになるまで面白い本や雑貨を海外から買い付けてきました。1年のうち、2ヶ月くらいは海外で過ごしていたんじゃないかな。いいものを見つけて量を売る場合はメーカーや卸を調べて、手紙を出して買い付けに行ったりしていました」
恵津子:「当時はPOPEYEを作っていた人たちとも仲がよかったので、情報交換してあっちこっち飛んでいました。店も小さかったから、机を挟んでお客さんと話をするんですね。そしたらお客さんも何か面白い本について教えてくれたりする。昨日、ヒロ杉山さん(イラストレーター・エンライトメント代表)と話していたら、彼は当時の本の位置まで覚えてましたよ。何か増えたらすぐわかるって、しょっちゅう来ていましたね」

人づてに独自のルートを開拓し、書籍や雑貨という物質を伴って海外の最新の情報を“密輸”していたオン・サンデーズ。和多利姉弟が持ち込んだ情報に、感度の高い人たちが惹きつけられ、さらに世の中に伝播していく。こうして、オン・サンデーズは情報を密にやりとりする交易拠点になっていった。浩一氏はコミュニケーションが密にできた空間だからこそ、面白い情報交換ができていたと話す。
浩一:「例えばイラストレーター・アートディレクターの湯村輝彦さんが、雑誌『流行通信』で僕らが売った海外の書籍にインスパイアされたようなデザインを、2ヶ月後くらいに出してくれる。それを見て姉と『やったね』ってニヤニヤしたり。お客さんからすると、そのコンパクトさが自分だけのお店、情報源のような感じがしたんでしょうね」

「オン・サンデーズ」で海外を駆け回った1980年代、そして1990年には「ワタリウム美術館」開館を遂げ、姉弟はアートの道を邁進していく。そこに至るまでにはやはり母・志津子氏の存在が大きい。和多利志津子氏はどのような人だったのか。「ギャルリー・ワタリ」時代について尋ねると、寺山修司や横尾忠則との驚きの交友録や、世界的なアーティストであるキース・ヘリング初来日の熱狂を振り返ってくれた!
>>Part.2〜「ギャルリー・ワタリ」「ワタリウム美術館」編〜に続く
■ワタリウム美術館
住所:東京都渋谷区神宮前3-7-6
電話番号:03-3402-3001
開館時間:11:00〜19:00
休館日:月曜日(祝祭日除く)
※年末年始は休館
入館料:
大人 1,500円 / 大人ペア 2,600円 /学生(25歳以下)・高校生・70歳以上の方・身体障害者手帳、療育手帳、
精神障害者保健福祉手帳お持ちの方、および介助者(1名様まで)1,300円
小・中学生 500円
URL:ワタリウム美術館ウェブサイト
<開催中の展覧会>
■オスジェメオス+バリー・マッギー
One More 展
開催期間:
2025年10月17日(金)〜 2026年2月8日(日)
開催場所:ワタリウム美術館 + 屋外
<次回開催予定の展覧会>
■ジャッド| マーファ展
会期:2026年2月15日 (日) 〜 6月7日 (日)
会期中休館日:月曜日(2/23、5/4は開館)
Photo:Takashi Minekura
Interview & Text:Tomohisa Mochizuki
























