真っ直ぐすぎる並木道と、この街に刻まれた航空の歴史
表参道・原宿エリアの文化や歴史にまつわる、ちょっとしたネタをご紹介する「OMOHARA TIPS」。今回は、昔からオモハラに通う人なら、一度は耳にしたことがあるかもしれない“ある都市伝説”を取り上げたい。
「表参道って昔、セスナの滑走路だったらしいよ」……というあの噂だ。
原宿駅前の神宮橋交差点から青山通りへと伸びる表参道を眺めていると、確かにその直線美と道幅から、「飛行機が飛び立ってもおかしくない」と思ってしまうから不思議である。実際、表参道の道幅は約36メートル。都内でもこれほど障害物が少なく、見通しの良い直線道路はかなり珍しい。
1950年代の表参道。まだ並木が低くより滑走路を想起させる景観。(提供:富士鳥居)
単なる噂と切り捨てられない裏付けも、実はいくつか存在する。
2006年には、成田国際空港の初代代表を務めた黒野匡彦氏が「滑走路として使われていた歴史があると聞いている」と発言。空港長の言葉となれば、説得力が違う。さらに、2004年のムック本から「表参道はセスナ機の滑走路だったときもある」(『原宿表参道』、2004年、枻出版社、6頁)という見出しも発見!
専門家や出版物の記述を前にすると、がぜん信憑性が増してくる。
2019年の表参道の空中写真。上から見ると直線が際立つ。(提供:国土地理院©)
これはやはり真実かと思いきや、問題が発生。いくら調べても、資料などの公的情報が全く出てこないのである……。
では、このまことしやかな「表参道滑走路説」とは一体何なのか?背景をたどっていくと、戦前・戦後を通しこの地に刻まれてきた歴史が生み出す、なかなか興味深いストーリーが見えてきた。
噂の火種になったと考えられるのが、表参道に隣接する代々木公園周辺の歴史だ。
時は1910年、まだ明治神宮(創建1920年)もワシントンハイツ(1946〜64年)も存在していなかった頃。現在の代々木公園がある一帯には、陸軍の訓練施設・代々木練兵場が広がっていた。実はここ、日本で初めて飛行機による動力飛行が行われた“日本航空発祥の地”なのである。2011年には日本航空協会が「重要航空遺産」に認定しており、代々木公園でかつて飛行機が飛んでいたという歴史的事実は揺るぎない。
代々木公園内、南口近くに設置されている「日本航空発始の碑」。
このエピソードが航空ファンや当時を知る人々の間で語り継がれるうちに、すぐ隣に位置する表参道の象徴的な景観と重なり、いつしか、昔は「表参道には滑走路があった」という噂へ変化していったのではないだろうか。
さらに、戦後の記憶もこの噂を補強している。終戦後、代々木練兵場跡地は米軍宿舎・ワシントンハイツとして接収された。実際、他の米軍施設跡地でも、返還後に当時の区画を活かした街づくりが行われている。
ワシントンハイツ全景。(毎日新聞社『毎日グラフ』1954年1月13日号)
代々木公園内に残っていたワシントンハイツの一戸は1964年「オリンピック記念宿舎」となった後、外観を再現し建て直され2026年「ドトール パークカフェ YOYOGI」に。
こうした、軍用地が街づくりに影響を与えた実例が「ワシントンハイツ」に隣接していた表参道のイメージと混同し、滑走路説へと繋がっていった可能性は高い。(ちなみに同じくかつて米軍施設があった練馬でも、滑走路自体は区画整備に転用されていないものの、同様の滑走路説が存在!)
ただ、冷静に“滑走路”として考えてみると、物理的な無理も見えてくる。
滑走路に重要なのは平坦さだが、実際に表参道を歩いてみると、そこには意外なほど大きな高低差がある。青山通りからキャットストリート付近へ向かって下り、そこから再び原宿駅方面へと上っていくすり鉢状の地形だ。当時の技術の飛行機が、これほどアップダウンの激しい坂道で離着陸を試みるのは、かなり危険だったはずである。
現在の表参道。奥へと視線を向けると傾斜がよくわかる。
そもそも時系列を振り返ると、表参道が整備されたのは1920年。明治神宮の創建に合わせて造られた参拝道であり、日本初の動力飛行が行われた1910年にはまだ現在の表参道は存在していなかった。当時この場所にどんな道があったのか、そもそも道が存在していたのかすら、はっきりとは分かっていない。
明治神宮の鳥居。ここを目指し表参道は伸びている。
もっとも、かつて代々木練兵場だった一帯は、現在の表参道とも緩やかに接続するエリア。正式な「道」として整備される前、この場所を黎明期の小型飛行機がテスト飛行のために滑走していた……そんな光景を想像するのも、案外的外れではないのかもしれない。
この街に刻まれた航空史や米軍の記憶、そして思わず「本当に飛べそう!」と感じてしまう並木道のスケール感。事実とロマンが溶け合うこのストーリーには、つい想像力をかき立てられる不思議な吸引力がある。だからこそ、「表参道滑走路説」は今も語り継がれているのだろう。
次に表参道を歩く時はきっとあなたも、あの真っ直ぐな並木道を、小型飛行機が颯爽と駆け抜ける光景を思い浮かべてしまうはず!
Text :Rin Inoue
Photo:OMOHARAREAL編集部
- オモハラリアルスタッフ
OMOHARAREAL編集室
























